短歌人7月号、8月号、9月号

2010年9月号 会員2欄

砂にまみれ二つの穴の穿たれし丸太の姿の鯔(ぼら)のころがる

眠れざる床に聞こゆる風鈴の音のようよう高くなるらし

夏風にみどりわななく森の奥へ無人のカートぞ走り去りける
*1

橋の下に鳴るサックスを振り切って自転車をこぐ独りになりたし

脱臼の骨身をさらす雨傘を勤め人らの靴は越えゆく


2010年8月号 会員2欄

尿(しと)の香の鋭き五月の厩舎よりひときわ高き嘶(いなな)き聞こゆ

タンカーはまだそこにいる初夏の海 ほんとうに欲しい知らせは来ない

引き潮にその身をさらす二輪車の細きかたちは泥に包まれ

その胸にゲバラの肖像(かお)をまといしがフライドポテトに指を光らす

うすくとも鋭き葉持つ芝に伏し私の縁を確かめている

ゆるゆると宙を流れる蜘蛛(くも)の糸 風の形に光漂う


2010年7月号 会員2欄

公園の丸い蛇口の先っぽに空色の水あふれだしてる

君からのメール届けばポケットの中にて跳ねる一匹の鮎*2

若き母らバギーを押して並びゆくそれが何さという表情(かお)をして

一〇五円の値札をはがせば歌集には癒えることなき痣の残りぬ

配達のバイクが過(よ)ぎる窓の外 子の指は開きしずかに閉じる

*1:歌人第2回ネット歌会に提出した「初夏の緑したたる森奥へ無人のカートぞ走り去りぬる」を改稿。作者名発表は2010年7月26日

*2:初出は短歌人の第1回ネット歌会。 詠草発表は2010年4月6日、作者名発表は、2010年4月26日