短歌人2010年2月号、3月号

2010年3月号 会員2欄

プルトップ引き抜いた指にまざまざと鍬形虫の角もいだ夏

身震いし雫を切れば窓の外 窓拭きの男うす笑いする

一日の仕事を終えてラーメンと牛丼の香る駅に降り立つ

飛び散った檸檬の酸はゆっくりと蝕んでいくワイシャツの襟を

眠れない夜ひとり飲む酒の酔い両頬をそろと撫でていくごと

亡き祖父の手垢にまみれしマルクスを開きてセブンスターの香を嗅ぐ


2010年2月号*1 会員2欄

エアコンをはずせば壁の白くして水着の跡のごとなまなまし

夕暮れの図書館に長き影落ちて恐竜図鑑色褪せている

公園のベンチの上に立っている歯形の深き紙コップひとつ

幼子の額に落ちし花びらを口に含めば乳の香ぞする

自転車を盗まれた日の夕暮れに頭上かすめるコウモリの群れ

地震の後引き出し奥の自動巻きぬばたまの闇を刻み始むる

*1:「短歌人」にはじめての詠草が掲載された