短歌人10月号、11月号、12月号

2010年12月号 会員2欄

秋空にスカイツリーの輝けばどこまで行っても逃れられない

知らぬまにベンチに手すりが生えていていつもの彼の姿は見えず

捨てられしガラクタばかりが美しき影をひろげる夕立ちののち

ビルとビルの谷間に残る一軒家 黄昏どきにカレーは香る

煮魚の目玉は唇(くち)をこぼれ落ち白磁の皿をちいさく鳴らす

はるかなる海さわだちて愛国の気分はふくらみたちまちしぼむ


2010年11月号 会員2欄

麦藁の帽子は波にのまれたり 噂より知る友の出奔

かつて逝きし飛行機乗りの御霊ゆえ飛行機雲はかくはかなしや

猫あまたはべる路地抜け会いに行く 放火魔のごと足を忍ばせ

汝の手より奪いし杏飴食めば我が舌先は果肉に触れる

夕立が来たりて濡らす物干しに吊られしままの水泳帽を

ぬばたまの闇に列なす老婆らはズンドコ節にのせて手を上ぐ


2010年10月号 会員2欄

球場の芝のみどりに輝けば白雲の影ゆっくり過る

砂浜に斜塔のごとく突き出してペットボトルは光を放つ

高波の真白き泡へと変わるとき浜辺の砂らささやきあえる

黒砂に半ば埋もれし貝殻をいくさ人らの骨かと思う

沖を指し遠ざかる君の水泳帽 波頭に隠れまたあらわれる

ポケットのなかより出でし貝殻は我が掌にもろくくずれる