短歌人2010年4月号、5月号、6月号
2010年6月号 会員2欄
油の膜に包まれて立つ動輪は光を放ち微動だにせず
幼子らたちまち黙す 春風を切り裂き昇る汽笛の叫び
果てしなく反復される律動の逞しさもてさらわれていく
朝もやにまどろむ亜細亜の田園を駆け抜けにけり黒き近代
石炭の淡き移り香漂いぬ 幼子の髪風になびけば
2010年5月号 会員2欄
死をコピペしたかのように墓石は陽の射す丘に正しく並ぶ
岩肌に刻まれた名が朱に染まる 家とはついに逃れがたき影
飯粒に海苔つややかなる湿り帯ぶ処女の翳りの濡れそぼつごと
妻を指しママと呟く吾子すでにことばの沼の汀に立てり
地下鉄のレールを越ゆる溝鼠 銀の背を揺がせて消ゆ
2010年4月号 会員2欄
草の上に冬日を浴びて黒々とタイヤのチューブは臓器にも似て
西日差す書棚にありて触れられぬ歌集のごとき姉の独り身
一粒のパン屑めぐり群れる鯉 空をむなしく食む音ぞする
タイヤもて踏みしだかれてぺらぺらの犬の骸へ雪は降り積む
放屁せど聴くもののなき部屋にいて清浄機赤ランプ灯しぬ
木枯らしに車輪の回る音響き結露流るる窓に額寄す