2011年1月号 会員2欄

しゃぼん玉くだけるときの冷たさを頬に受ければ七色の風 *1

夕暮れのメリーゴーラウンド浮き沈む永久に届かぬことばを乗せて

水槽の中のマグロを観るように紫煙を吐きだす男らをみる

鉄橋の真下に立ちて眼閉じれば我が身の内を列車抜けゆく

粉薬まきしごとくに黒土へ金木犀は花を散らしぬ

ペンキ屋のシンナーの香をくぐるとき少年たちの声はとぎれる

*1:第3回ネット歌会に発表した「しゃぼん玉くだけるときの冷たさを頬に受く 秋はわかれの季節」を改作。2010年11月14日、ネット歌会ウェブサイトにて作品発表

2011年3月号 会員2欄

自転車の倒れるまでの一瞬を僕らは息を詰めて見つめる

天使舞い降りるがごとくいくすじの陽は差す冬の大黒ふ頭

インシュリン注射の針の冷えびえと父が肌えの粟立ちており

つまずいて着物の裾をひるがえし女歩めり夕の銀座に

祈るごとケータイ掲げる群れにいて無数の光る腕を見ていた

終電の床に転がる空き缶を見届けぬまま駅に降り立つ

2011年4月号 会員2欄

階段の螺旋の先へくだりゆく懐かしき闇の奥の方へと

母の踏むミシンを遠く聴いていたあの果てしなく降る雪の夜に

爪先はモデラートからアレグロへ加速していくペダルの上を

見上げれば真っ直ぐに昇る心地する雪のひた降る空に向かいて

節分の翌朝窓を開けやれば敷居の溝に豆つぶれおり

制服の二人は歩めり雑踏に半角アキの距離詰めぬまま